「魔王」, 伊坂幸太郎

 

会社員の安藤は弟の潤也と二人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、一人の男に近づいていった。五年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。

 

【印象的な表現や文章】 

「魅力的で力のある言葉は、いつだって扇動家に利用される。」(P.117)

 

「この道をあと何年進もうと、恰好いい大人には辿り着かない気がするんだ」(P.119)

 

「人は、命令を与えられれば、それがどんなに心苦しいことであっても、最終的には実行する。命令された仕事だから、と自分を納得させるのかもしれない」(P.145)

 

「『逆に言えば、無関心が世界を台無しにしている、と?』マザー・テレサの、『愛の敵は、憎しみではなく、無関心だ』というあの有名な言葉を思い出した。」(P.149)

 

「世界とか環境とか大きいことを悩んだり、憂慮する人ってのは、よっぽど暇で余裕のある人なのかもしれない。さっき、そう思っちゃったんだ。小説家とか、学者とか、みんなさ、余裕があるから、偉そうなことを考えるんだって」(P.273)

 

「こういうトラブルが起きた時に、上司の能力が分かるよね。傾斜のきついコースに行って、はじめてスキーの上手さが分かるのと一緒で」(P.315)