「アンテナ」, 田口ランディ

 

大学院生・祐一郎の妹は、十五年前のある朝、忽然と消えた。必死にその行方を探した家族も、七年前の父親の死から、母は新興宗教にのめり込み、弟は発狂していく。なんとか家族を支えようとする祐一郎だが、SMの女王様ナオミと出会ったことで封印してきた性欲が決壊し、急速に何かが変容しはじめていた・・・。衝撃の話題作、文庫改稿版。

 

【印象的な表現や文章】 

「人は不条理な現実に耐えるために狂うのだ。狂気が不条理なのではなく、現実こそが不条理だから人は狂うのだ。生きるために少しだけ狂うのだ。」(P.10)

 

「苦痛が快感にひっくり返る瞬間、死がとても近くなる。みんなそのことを思い出すのが怖いんだと思う。」(P.101)

 

「自分の望むことがわからない時、人間は一歩も先に進めなくなるのだ。なんと単純で悲しい生き物だろう。」(P.263)

 

「妄想は、終わらないから危険なの。妄想は自分の中の閉じた世界。そこはとても安全だけど、一度迷い込んだらなかなか抜け出すことができない。妄想に魅せられた多くの人はその中でしか生きられなくなる。金魚鉢の金魚みたいに。」(P.270)

 

「この世界で怪しいことは全部、人間の意識が作ってます。人間が存在しなかったら霊も天国もありません。この世はすべて人間の都合でできています。だから、そこにいる人間にとって必要なものがその場所に現れる。」(P.306)