「夢を売る男」, 百田尚樹

 

輝かしい自分史を残したい団塊世代の男。スティーブ・ジョブズに憧れるフリーター。自慢の教育論を発表したい主婦。本の出版を夢見る彼らに丸栄社の敏腕編集長・牛河原は「いつもの提案」を持ちかける。「現代では、夢を見るには金がいるんだ」。牛河原がそう嘯くビジネスの中身とは。現代人のいびつな欲望を抉り出す、笑いと涙の傑作長編。

 

【印象的な表現や文章】 

「自分が一流ピアニストになれるとは誰も思わない。サーカスの空中ブランコをやれるとも思わない。でもな、日本語は誰でも書ける。だから自分も本くらい書けると思う。」(P.39)

 

「努力こそが、人から自由を奪うんだ。人は努力すると、その報酬を求めるようになる。これだけ努力したんだから、これくらいは報われていいだろう、とね」(P.46)

 

「ある種のタイプの人間にとって、本を出すということは、とてつもない魅力的なことなんだよ。自尊心と優越感を満たすのに、これほどのものはない。」(P.164)

 

「小説家というのはぶっちゃけて言えば、『面白い話を聞かせるから、金をくれ!』と言う奇妙奇天烈な職業だ。」(P.196)

 

「おそらく神話や昔話のルーツは全部がホラ話だろうよ。逆に言えば、人類ははるか昔からそういう物語を聞きたかったんだと思う。ワクワク、ドキドキするのがすべての物語の基本だ。」(P.198)

 

「現代くらい価値観が多様な時代はない。ほんのちょっと光るものがあれば、メッキでも評価される時代だ。そんな時代にあってすら、本が売れないような作家が後世に評価されることは、まずない。」(P.218)

 

「敵はコストダウンの鬼だ。しかし広告費はどんと出す。やり方は極端だが、ある意味効果的な作戦だ。」(P.260)