「モダンタイムス」, 伊坂幸太郎

「モダンタイムス(上)」

 

恐妻家のシステムエンジニア、渡辺拓海が請け負った仕事は、ある出会い系サイトの仕様変更だった。けれどもそのプログラムには不明な点が多く、発注元すら分からない。そんな中、プロジェクトメンバーの上司や同僚の元を次々に不幸が襲う。彼らは皆、ある複数のキーワードを同時に検索していたのだった。

 

【印象的な表現や文章】 

「だいたい人間ってのは慣れるだろ。ウィルスに対して、免疫ができるのも、慣れみたいなもんだ。慣れるから、もっと刺激が欲しくなる。で、進化する。筋トレもそうじゃないか。負荷を与えると、筋肉がつく。慣れると、もっと負荷を与える。女との関係も同じでな、慣れてきた頃には別の女と付き合わないと駄目なんだ。」(P.90)

 

「一番の恐怖は創造力から生まれるんだ。」(P.100)

 

「私たちは、知っています。人間を動かすのは、正論や正義感ではなく、恐怖や損得である、と。」(P.168)

 

「いいか、たとえば、国民は、殺人を許さない。殺人は許されない。それが道徳だと、基本的には誰もが認識している。実際、法律でも殺人は裁かれる。ただ、例外がある。戦争と死刑だ。」(P.279)

 

「金ってのは、思想が絡まないから、分かりやすいし、お互いのプライドを損ねにくい。志で負けたというよりも、金額で負けたというほうが胸を張れる。」(P.297)

  

 

「モダンタイムス(下)」

 

5年前の惨事---播磨崎中学校乱射事件。奇跡の英雄・永嶋丈は、いまや国会議員として権力を手中にしていた。謎めいた検索ワードは、あの事件の真相を探れと仄めかしているのか?追手はすぐそこまで・・・大きなシステムに覆われた社会で、幸せを掴むには---問いかけと愉しさの詰まった傑作エンターテイメント!

 

【印象的な表現や文章】 

「人は一度、説明を受けるとそれをありがたい真実だと受け入れるところがあります。その後ろ側に本当の真実が隠れていることに気付かないものなのです。」(P.94)

 

「大事なルールほど、法律では決まってないのよ。困った人に手を貸しなさい、とかね、そういうのは法律になってない。で、無条件に、糞赤信号に従うってのは、どういうことかって言うと。」(P.154)

 

「人生を楽しむには、勇気と創造力とちょっぴりの金があればいい。・・・チャップリンの科白だよ。」(P.239)

 

「昔は良かった、とかよく言うけど、昔も良くはねえんだよ。いつだって、現代ってのは良くなくて、だからな、俺たちは自分の生きてるその時と向き合わないといけねえんだ。」(P.243)

 

「どんな人間でも、毎日、先生、先生と呼ばれていたら、絶対に歪むんだ。学校の教師、医者、代議士、弁護士、作家、みんなそうだ。『先生』という言葉にまとわりつく、胡散臭い上下関係が、人を傲慢にする。謙虚さを奪っていくんだ。」(P.259)

 

「人間は今まで、次の世代の人間を教育することで歴史を続けてきた。人間は教育されなければ、社会を担うことができない。」(P.264)

 

「無知で、社会についての知識や責任も分からない子供たちに、物を教えるには、威厳が必要だ。そもそも動物は、自分より強い動物にしか従わない。・・・けどな、教師たちは何もできないんだよ。『やめなさい』『暴力は駄目です』なんて口で言うだけなんだ。あれで教育できるって言うんだったら、あの教師たちは今すぐ紛争地域に行って、マイクで、『やめなさい』と叫ぶべきだったな。」(P.265)

 

「研究にとって必要なものが何か分かるか?・・・しっかりと管理された環境だ。実験を繰り返し、結果を取得するために。」(P.266)

 

「進化は試行錯誤なんだ。正しい進化の仕方や方向性なんて、明確に存在していない。長い時間をかけて、突然変異と適応による生き残りが繰り返される。その結果、生き延びていく。・・・国家は、機械的で、システマチックなものでは決してない。そう思わないか?いろんな人間、政治家や官僚のエゴや自尊心、嫉妬や欲望が複雑に絡み合って、予想もしない現象を起こす。動物の行動と同じで、論理的には計算できない。」(P.327)

 

 

「人間は放っておけば、自分のために生きるようになっている。個人の営み、個人の欲求を維持することに必死になる。」(P.330)