「風の歌を聴け」, 村上春樹

 

一九七〇年の夏、海辺の街に帰省した<僕>は、友人の<鼠>とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。二人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、<僕>の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。群像新人賞受賞。

 

【印象的な表現や文章】 

「暗い心を持つものは暗い夢しか見ない。もっと暗い心は夢さえも見ない。」(P.11)

 

「文明とは伝達である、と彼は言った。もし何かを表現できないなら、それは存在しないのも同じだ。」(P.30)

 

「何かを持ってるやつはいつか亡くすんじゃないかとビクついているし、何も持ってないやつは永遠に何も持てないんじゃないかと心配している。・・・強い人間なんてどこにも居やしない。強い振りのできる人間が居るだけさ。」(P.121)