「宴のあと」, 三島由紀夫

 

プライヴァシー裁判であまりにも有名になりながら、その芸術的価値については海外で最初に認められた小説。都知事候補野口雄賢と彼を支えた女性福沢かづの恋愛と政治の葛藤を描くことにより、一つの宴が終わったことの漠たる巨大な空白を象徴的に表現する。著者にとって、社会的現実を直接文学化した最初の試みであり、日本の非政治的風土を正確に観察した完成度の高い作品である。

 

【印象的な表現や文章】 

「人間心理は数十の抽斗にきちんと分類させ、どんな難問にもいくつかの情念の組み合わせだけで答えが出た。」(P.9)

 

「こうして過去を語らぬことが、彼だけがまだ死人ではないというしるしだたろう。」(P.17)

 

「空虚に比べたら、充実した悲惨な境涯の方がいい。真空に比べたら、身を引き裂く北風のほうがずっといい。」(P.189)