「海の見える街」, 畑野智美

 

海の見える市立図書館で司書として働く31歳の本田。十年間も片想いだった相手に失恋した七月、一年契約の職員の春香がやってきた。本に興味もなく、周囲とぶつかる彼女に振り回される日々。けれど、海の色と季節の変化とともに彼の日常も変わり始める。注目作家が繊細な筆致で描く、大人のための恋愛小説。

 

 【印象的な表現や文章】 

「誰にとっても安全なようにと考えていたら、ボール遊びも走り回ることもできません。互いに気を遣い合うように教えるのも、僕たちの仕事です。」(P.167)

 

「ペットというのはそれなりの距離が必要らしい。人間でも、度を越して過保護にされたら、精神的におかしくなってしまう。」(P.278)

 

「愛されて大切にされてきた人だけが持つオーラのようなものが和泉さんを包んでいる。」(P.290)

 

「たぶん大人になるということは、自分は変わらない、と受け入れるようになるということなのだ。友情とはこういうもの、家族とはこういうもの、恋愛とはこういうもの---そんなふうに自分の中で(勝手に)セーフティネットを張り巡らせて生きている、それが大人という生き物なのだ。」(P.361)