「知の最先端」, 大野和基

 

「情報が洪水のごとく襲いくる時代に、身につけるべき態度とは何か。それは自らの軸を曲げない意志の強さであり、必要とされるのは全体を把握する『知性』を手に入れることだ。その最先端に位置するのが、本書に登場する7人の天才たちである。選択の原理を解明したシーナ・アイエンガー、『歴史の終わり』を超克したビジョンを示す、フランシス・フクヤマ、卓抜したイノベーションの知見をもつクレイトン・クリステンセン、当代最高の作家といわれるカズオ・イシグロ・・・。国際政治論からITまで、専門的かつ鳥瞰的な彼らの視点は、混沌とした現代を生き抜く武器を私たちに与えてくれる。

 

【印象的な表現や文章】 

「日本文化を研究するなかで気付いたのは、日本人はまず、”これ以上、レールから外れてはならない”という選択の『限界』を念頭に置く傾向が強いということです。これによって『選択の科学をどのように定義するのか』という問いに対する考えが深まりました。私の結論は、『選択の可能性』と『選択の限界』の二つのバランスを取ることができたときに初めて、人は選択の科学を実践している、というものです。」(P.22)

 

「一方で、アメリカでは適切な人が”こんなやり方は馬鹿げている”と判断すれば、一晩で物事が変わります。日本では、そのような思い切ったやり方をする人はいません。まずは話し合いからです。そのため、時間が浪費されてしまい、結果的に意思決定が遅れてしまう短所があるのです。」(P.27)

 

「中国の経済成長を過小評価するつもりはありませんが、日本を追い越したというのはたんに人口が多いからです。国の豊かさを表すには一人当たりGDPのほうが重要な尺度であり、日本やアメリカのほうが圧倒的に大きい。しかしGDPの絶対量が、軍事力の面で効果がある点は意識しなければなりません。」(P.53)

 

「市場の開放は、アメリカがそういっているから、という理由ですべきことではありません。競争はより高い生産性を生むために不可欠な要素なのです。ミクロの経済レベルで日本をみれば、『なぜこのような構造が残っているのか』と理解に苦しむこともしばしばです。」(P.58)

 

「・・・同じ気候・地理的条件でありながら、発展に差があるのでしょうか。産業革命がポーランドやフィンランドではなく、なぜイギリスで起きたのか。地理的条件ではこれらの違いを説明できません。」(P.84)

 

「いまの時代の企業にもっとも必要とされるのは、コミュニティだと思います。その企業の商品を好む人たちや、会社のビジョンに共感する人たちのコミュニティをつくらなくてはならない。ということです。キックスターターなどのオープンイノベーションが代表例でしょう。どのようなかたちでコミュニティを形成するかは、会社にとって今後成長する可能性があるかどうかの試金石になります。」(P.112)

 

「しかし一概に、新しい資本主義とは何かを規定することはできないかもしれません。資本、アイデア、人材、能力、評価・・・これらはすべて、市場という場において決定されます。」(P.113)

 

「お金を稼げるかどうかはもはや、一番の関心事ではありません。大切な注目度と評判という、二つの非金銭的な指標です。」(P.119)

 

「知識と情報が経済を動かす駆動力であることを最初に発表したのは、ピーター・ドラッカーです。・・・いまではクリエイティビテイとイノベーションこそが、経済を動かしています。」(P.126)

 

「アメリカでも労働人口でみれば、製造業は全体の一〇%です。・・・われわれは人間の可能性を生かし、ムダをなくすため、製造業で使ったアプローチをサービス業でも活用しなければなりません。」(P.140)

 

「・・・最初に農業、次に製造業が効率化され、最後に残っているのがサービス部門だということです。」(P.141)

 

「『イノベーションのジレンマ』とは、ビジネススクールで教えられているように、すべてのことを正しく実行すると、いずれ失敗するというものです。」(P.150)

 

「意思決定をするためにはデータに基づかなければなりませんが、そのデータは過去のものでしかありません。将来をみるとき、そこにデータは存在しないのです。だからこそ、そこでは理論が必要となる。」(P.170)

 

「人生は有限であり、われわれはすべてを望むことができない。こうした次元で考えたとき、対象を『役に立つか』という視点で捉えることは、たしかにその人生を効率的にするだろう。このとき切り捨てられるものとして槍玉にあがるのは人文系、とくに文学の類だ。しょせんは虚構であり、有益ではない---しかし、その虚構性にこそ、真の知性が表れると私は信じている。優れた文学作品は、直截的なテーマを提示せずとも、人間の存在意義について雄弁に語るのだ。」(P.172)

 

「どういうわけか、愛は、死を相殺できるほど強力な力になります。愛があるからといって、永遠に生きることはできませんが、どういうわけか、愛があると死がどうでもよくなるのです。」(P.184)