「白い巨塔」, 山崎豊子

「白い巨塔 (第1巻)」 

 

 

国立大学の医学部第一外科助教授・財前五郎。食道噴門癌の手術を得意とし、マスコミでも脚光を浴びている彼は、当然、次期教授に納まるものと自他ともに認めていた。しかし、現教授の東は、財前の傲慢な性格を嫌い、他大学からの移入を画策。産婦人科医院を営み医師会の役員でもある岳父の財力とOB会の後押しを受けた財前は、あらゆる術策を持って熾烈な教授選に勝ち抜こうとする。

  

【印象的な表現や文章】 

「人間は金が出来たら、次に名誉が欲しくなる、人間の究極の欲望は名誉や、名誉が出来たら自然に、金も人も附いて来るけど、金はどこもでもただの金に過ぎん・・・。」(P.84)

 

「以上のように両者は、学識、手技ともに優れ、容易に優劣がつけられず、しかも、両者とも外科学者として、技術的な能力と同時に、解剖学、生理学などの基礎的な面の学識も合わせ持ち、稀にみる学究の徒といえましょう。」(P.243)

 

「人間が人間の能力を査定し、一人の人間の生涯をきめる人事そのものが、突き詰めてみれば必ずしも妥当ではない、惨酷な、そして滑稽な人間喜劇なんだ・・・。」(P.264)

  

 

「白い巨塔 (第2巻)」 

  

現教授の東は、学会のボスから学外候補の推薦をうけ財前にぶつける。政界まがいの生臭い多数派工作のすえ、かろうじて勝利した財前に、国際学会から招聘状が届く。栄光に満ち多忙をきわめる日々のなかで財前は、同僚の第一内科助教授・里見脩二から相談された患者の早期噴門癌を発見し、見事に手術を成功させる。だが、財前がドイツに出発する日、その患者は呼吸困難に陥っていた。

 

【印象的な表現や文章】 

「運というものは天にも、人にも任すもんやない、自分で拾うてつくるものですわな・・・。」(P.163)

 

 

 

「白い巨塔 (第3巻)」 

 

財前が手術をした噴門癌の患者は、財前が外遊中に死亡。死因に疑問を抱き、手術後に一度も患者を診察しなかった財前の不確実な態度に怒った遺族は、裁判に訴える。そして、術前・術後に親身になって症状や死因の究明にあたってくれた第一内科助教授の里見に原告側証人になってくれるよう依頼する。里見は、それを受けることで学内の立場が危うくなることも省みず、証人台に立つ。 

 

 

 「白い巨塔 (第4巻)」

  

浪速大学教授・財前五郎の医療ミスを訴えた民事裁判は、原告側の敗訴に終わる。同じ大学の助教授の身で原告側証人に立った里見は、大学を去る。他方、裁判に勝訴した財前のもとに、学術会議選挙出馬の誘いがもたらされる。学会人事がらみの危険な罠を感じながらも財前は、開始された医事裁判控訴審と学術会議選挙をシーソーのように操り、両者ともに勝利することに野望をたぎらす。

 

【印象的な表現や文章】 

「財前は、自分の威厳を失わぬ程度の急ぎ方で、第一外科の医局を出、医学部長室へ向かった。」(P.28)

 

「自分が出来る時に力をかすのは、誰でも出来ることで、自分が出来ない時にでも、何とかしてさしあげるのがほんとうの尽力というものではございませんかしら・・・。」(P.180)

  

 

 「白い巨塔 (第5巻)」

 

 【内容紹介(裏表紙より)】 

開始された医事裁判の控訴審は、原告側弁護人や里見たちの献身的努力によって、予断を許さない展開に。そして、財前自身の体に不吉な病魔の影が・・・。厳正であるべき”白い巨塔”大学病院の赤裸々な実態と、今日ますますその重要性を増している医事裁判に題材をとり、徹底した取材によって、人間の生命の尊厳と、二人の男の対照的生き方とを劇的に描ききった、社会派小説の金字塔。

 

【印象的な表現や文章】 

  

 

「われわれ医師は、診断を決定するその時ほど孤独で、生命への畏れを感じる時はありません、それ故に、はっきりと自分で意識しなくとも過去の苦い経験を思い起こしながら、自分の築き上げた学問に立脚して考え得る可能性のすべてを考慮し、患者の総合的所見と睨み合わせて診断は定められるのです・・・。」(P.248)