「われわれはなぜ死ぬのかー死の生命科学」, 柳澤 桂子

 

私たちは、生まれ、成長したあと、老いて死んでゆくものだと思っている。けれどDNAは寿永の瞬間から、市に向けて時を刻み始めている。産声をあげる10ヵ月も前から、私たちは死に始めているのだ。生命が36億年の時をへて築きあげたこの巧妙な死の機構とはどのようなものなのだろうか?私たち生命にとって老化と死は、逃れられない運命なのだろうか?なぜ生物には死がプログラムされるようになったのだろうか?これまでだれも語ることのなかった死の進化をたどり、われわれはなぜ死ぬのかを考える。クローン羊、脳死法案など死と生命の倫理が問われる現在、生命科学者柳澤桂子が死の本質に迫る画期的な書。

 

【印象的な表現や文章】 

「紫外線は、DNAに傷をつけたり、破壊したりするので、生物にとっては致命的な毒である。生物は傷ついたDNAを補修する機構も発達させたが、なおすことのできないほどひどく傷ついたDNAをもった細胞を自爆させる機構も発達させた。これが『機構をもった能動的な細胞死』のはじまりではなかろうか」(P.54)

 

「遺伝情報は、いつ、どのようなタンパク質などをどれくらいつくるかということを指示する情報である。DNAに記された遺伝情報は、タンパク質などの分子の合成というかたちで『発現』する。」(P.57)

 

「進化のために必要なものは、変化と選択の二つの要素である。おなじ細胞だけしかできなければ、いつまでたっても変化はおこらない。偶然のきっかけで遺伝変化すると、変化した細胞が生じる。その細胞の増殖速度が少しでも大きければ、あるいは無条件に生き残る力をもっていれば、変化した細胞が増えることになる。」(P.60)

 

「この世に存在するものは、一般に時間とともに崩壊の方向に向かう。ところが生きているものは、時間を経ても秩序を保ちつづける。秩序を保つためには、エネルギーが必要である。」(P.62)

 

「DNA、RNA、タンパク質は紫外線を強く吸収する性質をもっており、その結果、これらの物質は破壊されてしまう。」(P.71)

 

「おなじ原生生物であるテトラヒメナを培養液のなかで生育さえるときに、細胞数が少なすぎると増殖できずに死ぬ。十分な栄養分の入っている培養液に、一ミリ・リットルあたり一〇〇〇個のテトラヒメナを入れるとすぐに一〇〇万個まで増える。しかしこの培養液に、七五〇個以下のテトラヒメナを入れたときには死んでしまう。」(P.85)

 

「生物が高騰になるにつれて、細胞分裂の機構も複雑になってきたが、それでも、個々の細胞の過程は、その細胞が健全でなければ進行しないようになっている。」(P.104)

 

「体細胞は一代で死に絶えるのに、生殖細胞はなぜこのように生き続けることができるのであろうか。もし、生殖細胞に老化も死もないとすれば、そこに重大な謎が秘められているのではなかろうか。」(P.129)

 

「一つのフリー・ラジカルが生じると、原子や分子からたがいに電子を奪い取る反応が連鎖的におこって増幅される。フリー・ラジカルは最終的に酸素と結合する。すなわち酸化反応をおこすので、DNAやその他の分子が酸化されて損傷を受けることになる。フリー・ラジカルによって損傷を受けるDNAやタンパク質、細胞膜の構成分である脂質などは生命現象にとって非常に重要な分子である。」(P.181)