「役員室午後三時」, 城山三郎

 

80年の歴史に輝く日本最大の紡績会社華王紡に君臨する社長藤堂。会社へのひたむきな情熱によって華王紡の王国を再建し、絶対の権力を誇った彼が、なぜ若い腹心の実力者にその地位を奪われたのか? 帝王学的な経営思想をもつワンマン社長と、会社を“運命共同体”とみなす新しいタイプの経営者---企業に生きる人間の非情な闘いと、経済のメカニズムを浮き彫りにした意欲作。

 

【印象的な表現や文章】 

「時代は変わるものじゃなくて、変えるものなんだよ。」(P.20)

 

「世の中には、どうしても登用しなければならぬ男というものが居る。登用することで登用した本人まで肥らせる男が居る。そうした男を発見し、思いきって起用することこそ経営者の仕事なのだが、現実の多くの経営者はそれができず、男を枯らせ、自分も痩せてしまう。」(P.22)

 

「しばらくして、大牟田が社長室を開放し、秘書を通さず誰でも自由に社長室へ出入りできるようにしたと聞いて、藤堂はひとり笑った。民主化とか、明朗化とかいうが、藤堂はそこにトップとしての器のちがいを見る気がした。・・・社員に乗ぜられる隙を与えてはならない。」(P.83)

 

「藤堂に在るのは、力の意識、そして、秩序の意識であった。『売ってくれ』、『売ろうではないか』では、社員は動かない。『売らねばならぬ』という線で押し通した。」(P.85)

 

「運命共同体とは、全体主義とも、御用組合とも関係がない。日本という国を個にばらし、個の確立の上で個の選択によって、運命共同体を形づくる。発端は個の選択であり、ねらいもまた、集団による個の幸福の確保である。人間が個人で生きられぬ以上、同生共死の強いきずなで結ばれ、互いの力を相乗し合って生きることが望ましい。」(P.93)

 

「ぼくには、政策のない社長というのは考えられない。」(P.100)

 

「力ある政治を行うには、力ある部下が必要だというのです。しかも、できれば命を賭けてくれるような部下が・・・。」(P.127)

 

「『盲千人、目明き千人』という。眩惑できる人間が、人口の半分は居る。だから、企業はいつも派手に打って出る必要がある。」(P.176)

 

「サラリーマンの勝負どきは、上役から質問を出されたとき、いつでも明確な答えが出せるよう、常日頃、勉強しておくこと。その上で、『おまえ、やれ』といわれたら、捨て身になってやり抜くことだと思う。」(P.212)

 

「既定の事実でも、くつがえす。この世の中に、くつがえせないものは何もない。」(P.227)

 

「経営は数字である。経営者は、何より数字に対し、忠実であらねばならない。」(P.231)