「塩狩峠」, 三浦 綾子

 

結納のため札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れ、暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた・・・。明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。

 

【印象的な表現や文章】 

「(おれは自分の日常がすなわち遺言であるような、そんなたしかな生き方をすることができるだろうか)」(P.170)

 

「人間てね、その時その時で、自分でも思いがけないような人間に、変わってしまうことがあるものですよ」(P.184)

 

「(法律にふれない罪でも、法律にふれる罪より重い罪というものがないだろうか)」(P.188)

 

「今ふっと思いついたことだがね。世の病人や、不具者というのは、人の心をやさしくするために、特別にあるのじゃないかねえ」(P.230)

 

「ただこうして話し合っただけで、死などという問題が解決されるわけはないじゃないか。やはり何のために自分は生きているのだろうかと思うと、何のためにも生きていない気がして淋しくなるだろう。生きている意味が分からなきゃ、死ぬ意味もわかりはしない。たとえわかったところで、安心して死ねるというわけでもないさ」(P.244)

 

「紙一枚いただいても、恩は恩。人の恩を忘れるのは、犬か猫ですよ。」(P.329)

 

「会者定離っていうからね。この大鉄則には、逆らうわけにはいかないからな。」(P.345)

 

「人間が人間であることのしるしは、その人格にあるはずですよ。」(P.350)

 

「人間の目から人間をみると、あっちが偉く、こっちがばかに見ましょうが、さて神の前に自分が立たされたとなると、これはまた別のものです。自分は偉いんだと、神の前ではたして人間は胸を張ることができるものでしょうか。」(P.371)