「量子コンピューターが本当にすごい」, 竹内 薫

 

量子力学の原理を使って複数の計算を同時に行い、スパコンを圧倒的に凌ぐ計算能力を持つ量子コンピューター。少し前まで「実現するのは百年後」と目されていたが、2011年、カナダのD-Wave社が突然、量子コンピューターの発売を発表。当初はその真偽が疑問視されていたが、2013年にGoogle, NASAが導入を決定。この快挙、実は日本人が開発した「量子アニーリング」方式の賜であった。暗号を軽々と解き、航空機のバグを即座に見つけ、今後社会をがらりと変えていく夢の計算機。量子コンピューターの凄さを、文系も楽しめるように基礎の基礎から解説する。

 

【印象的な表現や文章】 

「この世で最も電気が流れやすい元素は銀だが、その銀の原子直径が約0.3nmくらいだという。だから、この辺りが、原理的な限界だろう。実際は、原子を1個ずつ並べて配線しても、電流にはならないと思う(電子が外に漏れてしまうんやって)。」(P.137)

 

「量子とは、原子や分子、電子などといった、何かのモノのグループを意味するわけではないのだ。物理で「〇×子」と来たら、それは「〇×の最小単位」という意味になる。」(P.138)

 

「この世の物質をどこまでも細かく分解していくと、分子から原子、電子、陽子、中性子、果ては素粒子と呼ばれるモノにまで行き着く。そんな極小の世界では、エネルギーも分割不能な小さなカタマリなのである。」(P.138)

 

「『当てる光のエネルギーが、ある値より強い(ある波長より短い)と、金属から電子が飛び出す』という現象も見つかっていた。これが、いわゆる光電効果である。」(P.144)

 

「普段、僕らが生活しているサイズや時間では、物質の粒子性がクローズアップされて、波動性の方は気にしないでいいというだけなのである。ところが、分子や原子、もっと極微の素粒子サイズになってくると、波動性が目立ってくる。そうしたミクロの世界の物理学が、量子力学なのである。」(P.153)

 

「実は、フォン・ノイマン型のコンピューターは、量子力学の難しい問題をうまいこと計算できんのや。それは、古典物理学の仕組みを使てるからやねんな。もともと自然は、量子からできてるやろ?ほな、コンピューターに量子力学の仕組みを使たら、うまいこといくはずやん!」(P.237)

 

「チューリング・マシンの状態遷移関数では、テープへの書き込みは「1」だけだったが、量子チューリング・マシンでは、テープが量子なので、テープの状態によって、ある確率振幅で1を書き込む(シュレディンガー方程式を思い出してや!)。」P.248)

 

「基本的に、量子は、最低でも小型の分子以下、できれば電子や光子のように大きさがないくらいの量子であるほうが、量子の波動を使いやすい。さらに重要なファクターは、極低温が必要ということだ。そもそも、大きな分子や、多くの原子のカタマリだと量子として扱いにくく、あるいは高温だと量子として扱えないのだ。それらを構成する個々の粒子は波動性を持っていても、カタマリや高温だと、それぞれのバラバラな振動や熱エネルギーによる振動で、全体としての量子の波が打ち消されてしまうからだ。それが量子デコヒーレンスである。」(P.256)