「消された一家」, 豊田正義

 

七人もの人間が次々に殺されながら、一人の少女が警察に保護されるまで、その事件は闇の中に沈んでいた---。明るい人柄と巧みな弁舌で他人の家庭に入り込み、一家全員を監禁虐待によって奴隷同然にし、さらには恐怖感から家族同士を殺し合わせる。まさに鬼畜の仕業を為した天才殺人鬼・松永太。人を喰らい続けた男の半生と戦慄すべき凶行の全貌を徹底取材。渾身の犯罪ノンフィクション。

 

【印象的な表現や文章】 

「そしてハーマン医師は、『心理的支配の最終段階は、被害者がみずからの論理原則をみずからの手で侵犯し、みずからの基本的な人間的なつながりを裏切るようにさせてはじめて完了する』と述べている。」(P.56)

 

「また、前出のハーマン医師によると、強制収容所における囚人達の最終的な心理段階とは、生きる意志や自殺する気力さえも失くし、絶対的受け身の態度に徹することだという。・・・そして、『彼らは必ず死に至る』とハーマン医師が言う結末は、清志にとっても避けられるものではなかった。」(P.111)

 

「・・・ナチス収容所の囚人達の心理状態は恐怖から無気力へと移行し、しまいには、いつ自分の命を奪うかもしれないナチスの隊員への過剰な依存心に転じてしまったという。また、囚人同志は助け合いよりも争いをくり返し、より弱い者をいたぶり、中には肉親を平然と見捨てる者もいた。」(P.172)