「哀しい予感」, 吉本ばなな

 

私は目を閉じ、耳を傾け、みどりに海底にいるようだと思った。世界中が明るいみどりに光って見えた。水流はゆるやかに透け、どんなにつらいことも、その中では肌をかすめてゆく魚の群れくらいに思えた。行きくれてそのままひとり、遠くの潮流に迷い込んでしまいそうな、哀しい予感がした。19の私の、初夏の物語である。

 

【印象的な表現や文章】 

「あいつは、おまえのことを何となくはっきりしない女だと言ったかもしれないが、何もかもに対してそうやってきちんとバランスをを取り続けるところを、俺はいい女だと思うぞ。」(P.69)

 

「人が人を気にかけるエネルギーは何と強くてしつこくて、消えないのだろう。」(P.161)