「昨夜のカレー、明日のパン」, 木皿泉

7年前、25歳で死んでしまった一樹。遺された嫁・テツコと今も一緒に暮らす一樹の父・ギフが、テツコの恋人・岩井さんや一樹の幼馴染みなど、周囲の人物と関わりながらゆるゆるとその死を受け入れていく感動作。本屋大賞第二位&山本周五郎賞にもノミネートされた、人気夫婦脚本家による初の小説。書き下ろし短編「ひっつき虫」収録!

 

【印象的な表現や文章】
「自分には、この人間関係しかないとか、この場所しかないとか、この仕事しかないとかそう思い込んでしまったら、たとえ、ひどい目にあわされても、そこから逃げるという発想を持てない。呪いにかけられたようなものだな。逃げきれないようにする呪文があるのなら、それを解き放つ呪文も、この世には同じ数だけあると思うんだけどねぇ。」(P.23)
 
「嫉妬とか、怒りとか、欲とかーーー悲しいかな、人はいつも何かにとらわれながら生きていますからねぇ」(P.25)
 
「岩井さんのことは、正直、分からないことだらけだが、誰よりも「ほんとうに美しいもの」がこの世にあると思いたい人なのだろう。」(P.179)
 
「でも加藤さんは、嫌われることなど怖がらなかった。みんなが規律を守らない方がはるかに恐ろしい事だと考えていたのだ。」(P.188)

 

「見すぼらしい世界に、自分を合わせながら生きてゆく方が、はるかに損な気がしてきた。今、会社でチビチビと仕事をしている自分こそ、一番見すぼらしいのではないか。」(P.200)

 

「母のときみたいに、バカみたいにかっこうをつけていたら、大事な物がするりと腕からこぼれてしまう。」(P.265)