「リーダーシップ入門」, 金井壽宏

 家庭、企業、コミュニティ―。リーダーシップはあらゆる局面で直面する課題です。本書は、リーダーシップを実際に身につけるために理論と実例を紹介します。内容をより深く理解できる興味深いエクササイズを掲載。J.ウェルチ、小倉昌男、松下幸之助など著名な経営者の事例を的確に解説。具体的な知識が身につきます。

 

【印象的な表現や文章】 

「変革型のリーダーシップのエッセンスは、つまるところ、大きな絵を描いて、大勢を巻き込むことだ。ビジョンづくりとネットワークづくりと表現する研究者も多い。」(P.4)

 

「説明できない七、八割の部分は、リーダーシップの実践家が自分なりの持論と状況判断力によって、テーラーメイド(自分だけに合う、あつらえのように服)でつくり出す部分だともいえる。」(P.20)

 

「この国に不足しているのは、ビジネスの世界に限らずほかの領域を見渡しても、リーダーシップの取れるひとだ。それは、座学と読書で身に付くものではない。リーダーシップを実際に取る経験が、リーダーシップを獲得する最良の学校だ。」(P.29)

 

「・・・MITの故D・ショーン(Donald Schon)教授の名を世に広く知らしめた二十ループ学習(double-loop learning)の概念だ。・・・これまで学習してきたことが、今後もはや通用しなくっているのに、これまでのやり方のままさらに自分を磨こうとするのは、閉じた学習だ。」(P.44)

 

「リーダーシップの多様な捉え方のなかでも、『リーダーの言動とフォロワー認識の間にこそ、リーダーシップが存在すること』を基礎的な認識として重視していくことにする。その際、一方で『振り向けばついてくるフォロワーが存在すること』(クーゼス=ポスナーの基準)、他方で『フォロワーはフォロワーなりに自律していること』(ハイフェッツの基準)の二側面に注目していく。」(P.59)

 

「『リーダーシップの大半の定義は、つぎの仮定に立っている。リーダーシップとは、集団もしくは組織における諸活動や諸関係を導き、形づくり、促進するように、あるひとによって、他の人びとに対して意図的に影響力が行使される過程からなっているという仮定がそれだ』・・・リーダーシップが『影響力の一形態』であることに異論をはさむひとはいないだろう。」(P.61)

 

「だから、リーダーシップとは、リーダーのなかに存在するというよりも、リーダーとフォロワーの間にあるともいえるし、さらに言えば、リーダーの言動を見てフォロワーの大半がどうそれを意味づけるかという過程(プロセス)のなかに存在することになる。・・・このような影響力が生まれる過程は、ダイナミックなものであり、最初から所与として、リーダーにリーダーシップが(静態的に)付着しているわけではない。リーダーシップとは、リーダーとフォロワーのやりとりのなかから、インターラクティブかつダイナミックに帰属されている過程なのだ。」(P.63)

 

「時代・歴史の検証を経れば、今から見ると、ひどい絵、間違った方向を示していても、その当時、大勢のひとがついていったのなら、そのひとにはそのとき、そのフォロワーたちによってリーダーシップが帰属されていることになる。」(P.73)

 

「高い倫理性をリーダーシップの基本条件のひとつに加えれば、間違った絵を示したひとには(たとえ、ついていくフォロワーがいても)リーダーシップは認めないという(b)の立場(たとえば、ヤマト運輸で宅急便の事業を起こした小倉昌男氏の立場)もある。でも、実際には、間違ったビジョンにひとがついていってしまうこともある。それを素直に認めて、そのような危うさに警鐘を鳴らすほうがかえって健全だというのが(a)の立場だ。」(P.74)

 

「倫理性を条件に暴君にはリーダーシップを認めないという説とは異なり、カリスマをはじめ、強烈なリーダーシップを発揮するひとには、魅力と同時に、このような暗黒面があることを強調する学者の代表格が、リンドホルムやケッツ・ド・ブリースだ。」(P.75)

 

「その問いは、『そのリーダーについていくフォロワーもまた、付和雷同してではなくて、能動的・主体的にそのリーダーのビジョンの妥当性、倫理性を問いかけているか』という問いでもある。」(P.79)

 

「どのような調査対象を解明してきたのかによって、リーダーシップという現象をとられる視座がある程度ちがってくる。見知らぬひとたちからなるグループでリーダー役が生まれる相互作用過程を見るのか、同じ小集団でもそこで監督者や管理職をやっているひとの行動を見るのか、それとももっと大きな制度体のトップの振る舞いに注目するのか。」(P.84)

 

「職場では部長として部員がみんなついてきたのに、自治会では、なかなかみんなが言うことを聞いてくれなかったという経験がありはしないか。釣りという趣味のインフォーマルな集まりは、自分が釣りの技量と人物ゆえに自然にリーダー役となった。おだてられてなったが、もちろん権限はないし、同輩や趣味の仲間に指図するのはかえってやりづらい、ということもあるだろう。しかし、釣りが好きだという気持ちは共有している。」(P.88)

 

「『ひとがついてくる』のが権限(オーソリティ)によるものでなく、純粋にその人物のリーダーシップのおかげであるといえる程度に三つのタイプの間で違いがある。その程度・度合いは、任命されたリーダーよりは選挙で選ばれたリーダーのほうが、また、選挙で選ばれたリーダーよりは、自然発生的(創発的)リーダーのほうが高いのに、すぐ気づくだろう。」(P.90)

 

「その内容には、そのひとに力があるだけに普遍的に通用する部分と、そのひとが強烈な個性をもつがゆえに特有・固有の部分もあるだろう。しかし、その監督やコーチ自身には、信じている実践に直結したセオリーがあるという点が大事だ。」(P.95)

 

「普遍的な知よりローカルな知(local knowledge)、パーソナルな知(personal knowledge)のほうがパワフルなことがあり、文化人類学者のC・ギアーツは、前者を尊重し、哲学者のM・ポランニー(Michael Polanyi)は、実践に供される暗黙知として、後者に注目した。」(P.113)

 

「実証研究から研究者によって統計的手順で見出された次元(因子)に、理論的な次元の名称として、配慮や集団のメンテナンス(M)という言葉が選ばれることもある。このときには、それらは、同じ言葉ではあるが、研究者の側が二次的に構成した概念であり、配慮やMという因子の意味を理論的に定義して、測定尺度を開発して、取り扱うことになる。」(P.114)

 

「複雑なものを複雑なままに放置するのでなく、複雑なものの本質を、思い切って単純に捉えるのが、セオリーの存在意義だ。学者の作成する公式理論で、節約の原則(principle of parsimony)が強調されるのは、不用意に化け物のように複雑な理論を構築するのを戒めるためだ。それは、もしより少ない変数や概念で社会現象を説明できるのなら、変数や概念の数は節約したほうがいいとう考えだ。」(P.117)

 

「『他の事情に等しければ』という条件が現実にはなかなか満たされてない社会現象の鮮明のためには、とりわけリーダーシップのような領域では、出発点として普遍的な理論をそれなりに重宝しつつも、職場・組織・仕事や部下の特性と自分の持ち味にあったローカルでパーソナルな理論をもっと大切にしていいのだ。」(P.129)

 

「経営とは、論理の積み重ねなので、『論理的に考える力』が経営リーダーに必要とされる第一の条件だ。他人のまねをせずに、論理的に自分の頭で考える力がないと、ユニークなアイデアは出せない。」(P.159)

 

「研究者による公式理論でも、オハイオ州立大学など多いもので、後で示すとおり十二個、しかし、同じオハイオ州立大学でも、とことん集約すれば、理論的には二個にまで凝縮される。」(P.193)

 

「このアプローチでは、集団が鍵であって、PもMも集団の機能として定義されている。・・・ひとつは、実際に課題が達成されていくことであって、これにまつわる集団の機能がPだ。もうひとつは、せっかく課題が達成されたとしても、その過程で集団が崩壊してしまったら元も子もないので、集団を維持していくという機能がいる。こちらがM機能だ。」(P.212)

 

「高業績のリーダーの下では、失敗も学習の機会として捉える支持的な雰囲気があり、監督も人間的でおおらかなので、高い業績目標が掲げられても、部下の間で不当な圧力とは見なされていなかった。それに対して、低業績のリーダーの下では、失敗や誤りはきびしく罰せられ、そのために、職務上のいかなる圧力も、激励ではなく、不当なものと捉えられがちになっていた。」(P.236)

 

「あらゆるリーダーシップの研究は、成果を導くという点にかかわる必要がある。そのことを強調する動きは、最近では、RBLとかLFRと略称される・・・。」(P.238)

 

「逆に言うと、相当高い目標を提示していて、しかも結構きびしくて緊張感をもたせてくれるが、他方でこのひとはわれわれの気持ちを考慮に入れてくれているし、このグループにいてよかったと思えるような心配りをしてくれているならば、すごくきびしい目標、高い目標でも達成する気になるというものだ。」(P.253)

 

「一見、目のつけどころが違う諸理論の基盤にもこの二軸が底流で関連をもつか、あるいは、この二軸から最新理論でもその意味合いを捉え直すことができるからだ。また、なによりも、実践に重きをおく本書では、一度聞けば、忘れないような課題軸と人間軸で通すのがわかりやすさ、単純さという点でいいと判断するからだ。」(P.255)

 

「根っこにある共通の言葉は、リーダーにフォロワーから帰属される信頼性だ。」(P.266)

 

「今は変革の時代なので、数ある課題関連の行動のなかで、単に方針を伝達したり、圧力をかけたりするのでなく、この部門、会社全体をどこに連れていってくれるのか、つまりビジョンを示すことが最も強く求められるようになった。」(P.277)

 

「コープこうべでは、残念の浸透に際して、構造づくりで測定される課題軸のリーダー行動よりも、配慮で測定される人間軸の行動のほうがより大きな効果をもつことが判明した。」(P.281)

 

「図表5-15 LPC(Least Prefferred Co-worker)尺度。」(P.289)

 

「望ましいリーダー行動について原理・原則があっても、それらは、状況によっても違ってくるし、そしてほかならぬリーダー本人のひととなりとの間に、ある種の相性というか、マッチングというようなものが想定されてしかるべきだということだ。」(P.297)

 

「学ぶということは自分が変わることなので、リーダーシップを身につけるということは自己変容と当然のこととして伴う。しかし、どうしても守りたい自分の芯の部分まで変えてしまうよりは、そこは餅は餅屋で、一部を上にやってもらい、一部を右腕にこなしてもらうという発想が当然あってしかるべきだ。」(P.301)

 

「コツを探し求めることは、スポーツでも音楽でもその他の趣味(釣りでも将棋でも)、自分が好きな領域で上達したいと思ったら必ずやっていることだ。」(P.309)