「アヒルと鴨のコインロッカー」, 伊坂幸太郎

 

引っ越してきたアパートで、最初に出会ったのは黒猫、次が悪魔めいた長身の美青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ち掛けてきた。彼の標的は―――たった一冊の広辞苑。僕は訪問販売の口車に乗せられ、危うく数十万円の教材を買いそうになった実績を持っているが、書店強盗は訪問販売とは訳が違う。しかし決行の夜、あろうことか僕はモデルガンを持って、書店の裏口に立ってしまったのだ!四散した断片が描き出す物語の全体像は?注目の気鋭による清冽なミステリ。

 

【印象的な表現や文章】

「わたしは、語学力というのは知識や論理ではなくて、音楽的な能力に近いと思っているので、ドルジには才能があるのだろうな、と踏んでいる。」(p.33)

 

「どこかの半島で食料がなくて餓死する子供が何百人いようと、見知らぬ大陸の森で動物の大虐殺が行われていようと、それを見ない限りは信じない。目で見るまでは、何も存在していないのと同じだ。俺はそう思う。」(p.87)

 

「名誉も、お金も、すべては性的欲求に結びついているんだ。意識していなくてもさ。遺伝子はいつだって、子孫を残すことを念頭に置いているだろ」(p.187)  

 

「楽しく生きるには二つのことだけ守ればいいんだから。車のクラクションを鳴らさないことと、細かいことを気にしないこと。それだけ」(p.232)