「黒い家」, 貴志 祐介

 

「うん。どうも人間というのは、敵味方にかかわらず、長く見ているもんに親しみを覚えるいう変な習性があるらしい。聞いたこと、あるやろ?人質に取られた人間が、犯人とずっと一緒におるうちに、犯人に感情移入してしまうやつ」(p.114)

 

「人格障害にはいろんな種類があるんだけど、情性欠如に加えて、抑制欠如、爆発性の二つを併せ持っている場合を、特に背徳症候群と呼んでいるのよ。きわめて重大犯罪を繰り返しやすい、最悪の組み合わせということでね」(p.146)

 

「あなたもよく知っていると思うけど、感傷というのは、感情の代替物なのよ。したがって、感傷的な人間というのは、まったく正反対の二つのタイプに分けられるの。一つは思春期の女の子のように、感情のエネルギーそのものが過剰である場合。そしてもう一つは、正常な感情の流れが、何らかの理由で堰き止められてしまっているために、感傷という形で捌け口を見いだしている場合ね。」(p.153)

 

「もちろん、誰にも、心の中は読めないよ。だから、外に現れた、その人の行動から判断するしかないだろう?」(p.160)

 

「人間の行動は、常に、遺伝と環境という二つの因子でコントロールされています。どちらかが百パーセントで他方がゼロであるという例は、残念ながら、私は寡聞にして知りません。犯罪に関してだけ百パーセント環境が決定するなどというのは、性善説に近いおとぎ話で、日本以外のどこの国でも通用しませんよ。」(p.186)

 

「論理や感情が堂々巡りに陥った時には、直感や感覚の方を信じるべきよ」(p.234)

 

「自分たちを守るために、彼らは巧妙なトリックを使うようになるの。裏切られても傷つかないですむように、何に対しても心の絆を結んだり愛着を持ったりはしない。そして、自分たちの存在を脅かすものに邪悪のレッテルを貼って、いざとなったら心を痛めることなしに排除できるようにしておくのよ。」(p.345)

 

「人間の精神に起因する危険であるモラルリスクは、かつては社会の進歩とともに減少していくと思われていた。だが、現実はまったく逆の方向をたどりつつある。」(p.357)