「新世界より」, 貴志祐介

 

<上巻>

1000年後の日本。豊かな自然に抱かれた集落、神栖66町には純粋無垢な子どもたちの歓声が響く。周囲を注連縄で囲まれたこの町には、外から穢れが侵入することはない。「神の力」を得るに至った人類が手にした平和。念動力の技を磨く子どもたちは野心と希望に燃えていた・・・・・・隠された先史文明の一端を知るまでは。

 

【印象的な表現や文章】

「早くから指摘されていたのは、教育の重要性でした。幼児期の情操教育、母子関係から、道徳・倫理教育、洗脳的な宗教教育にいたるまで、あらゆる教育方法についての徹底的な議論が行われました。しかし、その結果わかったことは、教育はたしかに死活的に重要であるものの、万能ではないということです。どれほど完璧な教育制度を作ったとしても、人間の攻撃性を完全に封じ込めることは、到底不可能であると結論づけられました」(p.249)

 

 

 

<中巻>

町の外に出てはならないーーー禁を犯した子どもたちに倫理委員会の手が伸びる。記憶を操り、危険な兆候を見せた子どもを排除することで実現した見せかけの安定。外界で繁栄するグロテスクな生物の正体と、空恐ろしい伝説の真意が明らかにされるとき、「神の力」が孕む底無しの暗黒が暴れ狂い出そうとしていた。

 

【印象的な表現や文章】

「人格指数っていうのは、どれだけ、その人の人格が安定しているかていうことを示す数値なの。どんなに想定外の出来事があって、心の危機を迎えても、自分を見失ったり、心が壊れていまったりせず、一貫した自分を保てるか。それこそが、指導者にとっては、一番大事なことなのよ」(p.255)

 

「それはね、従順な子羊だけでは、町は守れないからよ。指導者には、清濁併せ呑む度量、ときには汚れ仕事も厭わない強い信念が必要だし、町自体が時代に合わせて変化していくためには、ある種の変わり者、トリックスターのような存在が求められることもある」(p.345)   

 

 

 

 

<下巻>

 

夏祭りの夜に起きた大殺戮。悲鳴と嗚咽に包まれた町を後にして、選ばれし者は目的の地へと急ぐ。それが何よりも残酷であろうとも、真実に近づくために。流血で塗り固められた大地の上でもなお、人類は生き抜かなければならない。構想30年、想像力の限りを尽くして描かれた五感と魂を揺さぶる記念碑的傑作!

 

【印象的な表現や文章】

「心から恐怖を追い出せるほど強い感情は、怒りしかない」(p.205)

 

「私の経験では、むしろ、状況が最悪と思えるときなんです。ただでさえ絶望的なのに、実際の事態はさらに悪いのではないかと冷静に疑う人間は、あまり見たことがありません。誰もが、儚い希望を探し求めるあまり、危険な兆候をあっさり見過ごしてしまうんです」(p.350)

 

 

「皆さんは、諦めが早すぎる。我々の種族は、心臓が鼓動を止める、まさにその瞬間まで、逆転する方策を探し求めます。それが無駄な努力に終わったところで、失うものはありません。兵士の本分という以前に、生きている限りは戦い続けるのが、生き物としての本分なのです」(p.461)