「超バカの壁」, 養老孟司

 

「今の日本社会には、明らかに問題がある。どんな問題があるか。私はものの考え方、見方だと思っている。そこがなだか、変なのである」---フリーター、ニート、「自分探し」、テロとの戦い、少子化、靖国参拝、心の傷、男と女、生きがいの喪失等々、現代人の抱える方法、考え方は自分の頭で生み出す。そのためのヒントが詰まった、養老孟子の新潮新書第三弾。

 

【印象的な表現や文章】 

 

「仕事というのは、社会に空いた穴です。道に穴が空いていた。そのまま放っておくとみんなが転んで困るから、そこを埋めてみる。ともかく目の前の穴を埋める。それが仕事というものであって、自分に合った穴が空いているはずだなんて、ふざけたことを考えるんじゃない、と言いたくなります。」(P.19)

 

「社会のために働きというと封建的だと批判されるからもしれません。『自分が輝ける職場をみつけよう』というフレーズのほうが通じやすいのかもしれません。しかしこれは嘘です。まず自分があるのではなく、先にあるのはあくまでも穴の方なのです。」(P.22)

 

「あなたはただの人だというべきです。それを自覚して社会に空いている穴を埋めろ。そうすると幾ばくかの金がもらえる。その人が埋められる穴もあるけれども、埋められない穴が世の中にはいくらでもあります。埋めたい穴と埋められる穴は別のこともあります。埋めているうちに、穴を間違えたことに気づくということも十分あり得る。」(P.28)

 

「しかし時を中心に考れば、本当に大切なのは先見性ではなくて普遍性なのです。その人が普遍性を持っていたらいつか時が来る。その人に合った時代が来るのだと思います。無理やり新奇なことをやろうとするのではなく、できるだけ普遍性を目指したほうが、結果的に先取りになっていることがある。以前から繰り返し述べている通り、なるべく人に通じるように、共通性を求めたほうがいいということです。」(P.31)

 

「倫理というと、ついつい頭の中での抽象的な戒めだと思われるかもしれません。しかし実は出力=行動の規則なのです。」(P.54) 

 

「つまり『衣食足りて礼節を知る』なのです。これは非常に重い言葉なのです。多くの人は衣食が足りないと礼儀知らずになる、下品になるというふうに受け止めているでしょう。でもそういう意味ではありません。すでに述べたとおり、脳の働きから見ても人間は衣食が足りないうちは、まともな考え方はできないのです。」(P.59) 

 

「安定性といっても女のほうが、男よりもいろいろ目に見えて体が変化するじゃないか。そうおっしゃるかもしれません。たしかに生理もあれば、妊娠、出産もあります。しかし、そういうさまざまな変化があるからこそ安定性をどうしてもつけなくてはいけなかったとも考えられます。複雑すぎる機械は壊れやすい。だから比較的シンプルな作りになっているのです。」(P.69) 

 

「都市化ということは、根本的に子供を育てることに反するからです。子供は自然です。そして都市化するということは自然を排除するということです。脳で考えたものを具体的な形にしたものが都市です。自然はその反対側に位置していています。」(P.73) 

 

「『らしさ』を否定されて、子供は子供らしいよりも、大人に近づいたほうがいいのだといういことになってきた。都市化とした社会は子供に対して早く大人になれと要求します。彼らに大人予備軍としての価値しか認めていないからです。子供が子供であることに価値があるとは、思われなくなってきたのです。」(P.75) 

 

「子供の本質的価値というのはたとえば無垢であるということです。そういう子供らしさに今の人は価値を認めようとしません。」(P.76) 

 

「うまくいこうが、トラブルが起ころうが、自分で責任を持つ。それを続けていくと、ひとりでに大人になってくる。」(P.186)