「バカの壁」, 養老孟司

 

イタズラ小僧と父親、イスラム原理主義者と米国、若者と老人は、なぜ互いに話が通じないのか。そこに「バカの壁」が立ちはだかっているからである。いつの間にか私たちは様々な「壁」に囲まれている。それを知ることで気が楽になる。世界の見方が分かってくる。人生でぶつかる諸問題について、「共同体」「無意識」「身体」「個性」「脳」など、多様な角度から考えるためのヒントを提示する。

 

【印象的な表現や文章】 

「つまり、自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている。ここに壁が存在している。」(P.14)

 

「基本的に世の中で求められている人間の社会性というのは、できるだけ多くの刺激に対して適切なaの係数を持っていることだといえる。もちろん、その中にゼロであることが正しい係数、ということだってあるでしょう。街を歩いている最中、ずっと電柱に反応しつづけたって仕方が無いのですから。」(P.39)

 

「。その今の若い人を見ていて、つくづく可哀想だなと思うのは、がんじならめの『共通了解』を求められつつも、意味不明の『個性』を求められるという矛盾した境遇にあるところです。」(P.45)

 

「・・・本来、意識というのは共通性を徹底的に追求するものなのです。その共通性を徹底的に確保するために、言語の論理と文化、伝統がある。」(P.48)

 

「そういう『個』というものを表に出した文化というのは、必ず争いごとが起きている。」(P.50)

 

「他人のことがわからなくて、生きられるわけがない。社会というのは共通性の上に成り立っている。人がいろんなことをして、自分だけ違うことをして、通るわけがない。当たり前の話です。」(P.70)

 

「プラトンが言いたいのは平たく言えばこういうことです。『おかしいじゃないか。リンゴはどれを見たって全部違う。なのに、どれを見たって、全部違うリンゴを同じリンゴと言っている以上、そこにはすべてのリンゴを包括するものがなきゃいけない』この包括する概念を彼は『イデア』と定義したのです。」(P.72)

 

「入力から出力へというのは非常に単純につながっているわけです。最も単純につながっているのが動物や虫。反射的に行動しているわけで、これを通常、本能と言ったりもします。」(P.79)

 

「より噛み砕いていえば、人生の意味は自分だけで完結するものではなく、常に周囲の人、社会との関係から生まれる、ということです。とすれば、日常生活において、意味を見出せる場はまさに共同体でしかない。」(P.109)

 

「こういうタイプの『天才』の脳の働きは、一体どうなっているのでしょうか。・・・おそらく、このシナプスの部分をすっ飛ばしてしまっているのではないか、と仮定されます。・・・普通ならばA→B→C→Dと進むところをA→Dという具合にBとCを飛ばしている。普通ならば繋がっていないところを繋げてしまっているのではないでしょうか。」(P.140)

 

「サラリーマンというのは、給料の出所に忠実な人であって、仕事に忠実なのではない。職人というのは、仕事に忠実じゃないと食えない。自分の作る作品に対して責任を持たなくてはいけない。」(P.160)

 

「バカの壁というのは、ある種、一元論に起因するという面があるわけです。バカにとっては、壁の内側だけが世界で、向こう側が見えない。向こう側が存在しているということすらわかっていなかったりする。」(P.194)

 

「安易に『わかる』、『話せばわかる』、『絶対の真実がある』などと思ってしまう姿勢、そこから一元論に落ちていくのは、すぐです。一元論にはまれば、強固な壁の中に住むことになります。それは一見、楽なことです。しかし向こう側のこと、自分と違う立場のことは見えなくなる。当然、話は通じなくなるのです。」(P.204)